エール。

By mameta, 2017年1月28日

まめ太による私小説。

(おヒマな時に読んでくださると嬉しいです)

 

くたびれ主婦Mは夕方の買い物が苦手だった。

「Mさんじゃなーい!久しぶり〜」

なんて声を掛けられようものなら、

マスクをしてこなかったことを後悔して、そそくさと逃げてしまいたくなる。

そういえばこの間の免許更新の顔写真のガッカリ度は半端なかった。

好きなものづくりの仕事を始めたというのに、顔がくたびれているという不可思議現象。

自分で自分に喝。

「好きな仕事できてるんだから、もっと楽しめよ」

 

エコバッグの他に買い物袋を二つ。缶ビール6本パックは容赦なく重かった。

集合ポストの扉を開けるのも気怠く、

チラシの束を素早く掴むとMの足は階段へ向かっていた。

 

チラシの束の中に茶封筒があるのを、階段を上る途中で感じてはいたが、

どうせオットのアマゾンだろうと思っていた。

だから部屋に入って買い物袋の中身をゆっくり片付け、

留守番をしていた子どもに小言を言い、

配達物に目をやるまで随分と時が過ぎてしまっていた。

「やれやれ」

そういえば朝起きた時からMはそんな気分だった。その配達物に意識が向くまでは。

 

差出人に(akko)の文字を見る。

まさか。

でもこれはもしや世に言う「素敵便」とか「サプライズ便」なのか。

鳥肌の立つ腕をさわさわとさすりながら、そっと茶封筒を開ける。

ふんわりと漏れ香る。

彼女の贈り物にはもれなく香りが付いていると、

そしてその香りをみんなフガフガしていると、

何度も目にした数々のシーンが一瞬でよみがえった。

もう間違いない。

Mのところに想像もしなかった「思いやり便」が届いた。

「励まし便」という名でもしっくりくる。

akkoとは、Mが尊敬してやまないクリエイターだった。

Mは誰かの思いやりや励ましを必要としていた。

akkoはそれを知ってか知らずか、Mを想って前々から用意してくれたものだった。

そのタイミングで届けられた贈り物に、体が反応し、心が震え、さめざめと泣いた。

 

贈り物のほとんどは彼女のオリジナル作品だった。

彼女の世界観があふれる端材リメイク。

チケットデザインの革のキーホルダー。

ヴィンテージ感たっぷりの手作りのラベル。

M作のものも使ってコラージュされたミニ封筒。

akkoが作り出すものには、一貫した信念のようなものを感じていた。

本当は違うのかもしれなかったが、Mは的確に言い表す術を持たなかった。

そしてどれもがMには眩しくてならなかった。

 

肌伝いにあたたかなエールを感じた。それはハッキリとしたものだった。

M&Y。

Mのイニシャル。

しばらく前にakkoのinstagramで見かけていたものだった。

八葉豆太(やっぱまめた)、相変わらずさえない名前もこの時ばかりは誇らしかった。

 

この「思いやり便」には隠されたもう一つの役割があった。

それにMはまだ気づいていない。

ただ、Mはもうその魔法にかかってしまっていた。

1日に何度も袋を確認し、開いては閉じ、また開いては閉じる。

そして鼻腔の奥で香りを呑み込み、何度も安心感を得る。

「大丈夫だ。わたしはただ作ればいい。だって作りたかったのだから」

Mのくたびれ顔はくたびれ顔なりに前向きになっていた。

明日は新しいキーホルダーとともに、新作のヒントを探しに出かけるのだ。